昇給のない賃金制度はできるのか?

 事業承継後間もない社長が真顔でこう問いかけてこられました。
 「毎年、人件費がどれほど増えるのか、賃上げの時期になると気が重くなります。昇給をしないで済むような給料の決め方はないものでしょうか」と。

 単純作業職の採用であれば、時給と出勤日数で、給与は決められます。このような給料の払い方を日給月給と言います。職種限定、人事異動のないパート、アルバイトや臨時従業員の給料の払い方がこれに相当します。

 このような雇用の場合、期間を定めた労働契約が雇い入れの条件です。給料も、働いた分だけ毎月精算すればよく、夏冬の賞与も、定めていなければ不要です。昇給も退職金もいりませんし、勤務成績が不良であれば予告手当は必要ですが解雇もできます。以上が一般的に言う有期の契約社員であり、正規従業員(定年退職の日まで雇用期間の定めをしない)とは区別して扱われます。

 有期の契約社員の給料は日給月給ですが、正規従業員(以後正社員と呼ぶ)の場合はどうでしょうか。就労日数が月によって違っても定額の所定内給与が毎月支払われます。遅刻、早退、欠勤があればその分控除し、残業分が加算される条件付の月給制です。

 もしも、昇給をしないで済む給料に社長が執着し、仕事の質が高めていくことが求められる正社員の給与を、安い金額で固定してしまったらどうなるでしょうか。

 凡庸で転職など考えられない社員であれば、しぶしぶ納得するかも知れません。しかし、より多くの仕事を経験して、永く企業に貢献できる仕事力を発揮する質の高い社員にとっては、我慢できる話ではありません。

 正社員にとって、年ごとの評価にふさわしい定期昇給が制度として保証されていることが必要最低限の条件です。社員も、自分の将来が描けるからこそ、安心して仕事に専念できるのです。お客様重視、能率の向上も、企業と社員の良好な信頼関係があってこそです。

 社員への昇給なくして、企業の発展などありえません。社長は賃金の誤解から目を覚まし、やる気ある社員たちが報われたと実感できる賃金制度をぜひ構築してください。



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法定労働時間と所定労働時間を考える

 企業において、月例給与計算の根拠となる就労時間を把握する場合、法定労働時間と所定労働時間の2つの概念があることは皆さんご存知のとおりですが、念のため確認しておきましょう。
 
①法定労働時間は、労働基準法に定められており、その第32条第1項により週に40時間まで、同条第2項により1日8時間までと定められています。
 この場合の1週とは、就業規則その他に別段の定めが無い限り、日曜日から土曜日までをいい、1日とは午前0時から午後12時までの暦日を意味します。
 
②所定労働時間とは、労働者と使用者の間に交わされた労働契約上の就労時間のことです。つまり就業規則に記載された始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を差し引いた就労時間のことです。
 
(勤務時間および休憩)
第○○条 1日の正規の就業時間は、実働7時間45分とし、始業、終業および休憩の時刻は、次のとおりとする。
    始 業    8時30分
    終 業   17時15分
    休 憩  12時00分より13時00分
 

 所定労働時間と法定労働時間がともに8時間である場合は問題ないのですが、上記のように就業規則に定められた一日の就労時間が法定時間より15分短い実働7時間45分だとして、1月の就労が21日とすれば、所定労働時間は法定時間より月にして5時間15分ほど短くなります。
 この所定時間を超え、法定時間までの労務があれば、その時間は法定時間内残業です。

 労基法では法定労働時間を超える超過勤務がある場合には2割5分以上の割り増し賃金を支払わなければならない(第37条第1項)と定めています。

 この会社の場合、就業規則で定めた所定労働時間に加えて20時間ほどの残業勤務があるとすれば、20時間分について時間外勤務手当を支給しなければなりません。ただし、法定時間内残業に相当する労務がその月5時間あったとすれば、時給で計算した金額の手当加算は必要ですが、法定時間を超える超過勤務ではありませんから、2割5分以上の割り増し賃金は不要となります。

 法定時間内の残業と法定時間外残業を区別して計算するのはわずらわしいから、単純に25%増しで計算して時間外手当を支払う方が一般的かもしれません。しかし、少しでも人件費を抑えようとするなら、それぞれを正しく計算し、少しでもコストを下げるといった選択肢もありではないでしょうか。



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2011年の年末賞与はどう決めるか

2011年もあと2ヵ月を切りました。

 今年を振り返れば・3月11日の東日本大震災と巨大津波そして福島第一原発の事故に始まり、欧州債務不安による海外経済の混乱とそれによる極端な円高に見舞われました。10月にはタイの大洪水により400社を超える進出企業が現地での操業停止に追い込まれています。まさに経験したことのない緊急事態が連続した1年であり、来年にかけて日本企業に広範かつ深刻な影響を与えるものと覚悟すべきでしょう。

 内閣府は10月の月例経済報告において「景気は、東日本大震災の影響により依然として厳しい状況にあるなか、引き続き持ち直しているものの、そのテンポは緩やかになっている」として6ヶ月ぶりに下方修正しました。

 そんな今年の年末賞与には、どう対処すべきでしょうか。

 日本経団連は10月13日、大手企業の2011年年末賞与・一時金(冬のボーナス)の妥結状況(第1回集計)を発表しました。それによると、冬のボーナスの平均額(加重平均)は前年比4.77%増の81万480円。業種別にみると、製造業は前年比5.59%増の80万9313円、他方、非製造業は前年比0.36%減の81万8061円となっています。
 
この第1回集計で回答した大企業の多くが、春闘で年末賞与を含めて妥結していることを考えれば、5%前後のアップも理解できる水準です。

 しかし、震災、節電、その後の極端な円高、大洪水の影響等を考慮せざるを得ない企業も多いのではないでしょうか。これから本格化する中堅企業の賞与交渉は厳しいものとなると予想できます。

 私ども賃金管理研究所は諸事情を加味して検討した結果、大企業は昨年に比べ平均で4.5%増、中小企業は逆に平均で3%減と予測しました。

 ただし、これらの数字は平均値であり、個別企業における賞与総額は自社業績を根拠に決定されるべきものです。昨年より増額する企業もあれば、より厳しい対応をせざるを得ない企業も出てきて当然です。

 さらに賞与総額決定の次に来る個別の賞与金額の決定にあたっては、成績評価制度を正しく運用し、半年間の仕事の成果とプロセスをきちんと評価して、納得できる賞与金額を支給することが大切であり、総和としての仕事力を企業全体で高め、明日につなげていくことが大切です。

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監督署の指導を受けやすい管理職と役付社員

 ある会社の社長が、私のもとへ相談に来られました。
 「知り合いの会社に労働基準監督署から監督官がきて、いろいろと調べられた結果、管理監督者の範囲と管理職と役付社員の手当金額について改善指導を受け、手直しに苦労しているようです。そんな話を聞くと、私も急に心配になりまして、先生に相談に伺いました。」とのこと。

 労働基準法32条では、
・ 使用者は労働者に、休憩時間を除き1週間について、40時間を超えて労働させてはならない。
・ 使用者は1週間の各日については労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて労働させてはならない
と定めています。

 これが法定内の8時間勤務です。
 そして、労働基準法37条で、その8時間を超える残業および法定外休日は「25%の割増」を、毎週1日の法定休日(多くの企業の日曜日)に勤務した場合には「35%の割増」賃金を支払うよう企業に義務づけています。

 ただし、労働基準法41条で監督や管理する地位にある「管理監督者」については、労働時間、休憩および休日に関する規定を適用しないと定められています。これにより、時間外労働や休日勤務の割増賃金の支払い義務が免除されています。

 労働基準監督署の監督官が、役付き社員が41条に定める管理監督者かどうか判断するとき、その役割の実態から判断して、
  ① 労働条件の決定や労務管理について経営者と一体的な立場であること
  ② 勤務時間の自由裁量があること
  ③ 職務に見合う給与や賞与等でふさわしい処遇を受けていること
が確認できなければ管理職とは認めがたいとして指導します。
 従ってそれぞれの企業が人事管理上、営業政策上の必要から任命する職制上の役付者がすべて管理監督者と認められる訳ではありません。多くの企業が労働基準監督署から指導勧告、時に改善命令を受けるのはそうした理由からなのです。

 今回来られた社長の会社では係長には5千円の役付手当を、課長代理には2万5千円、課長には3万円の役付手当を支給しており、課長代理以上の役職者には残業及び休日勤務の手当は支給していないとの事でした。

 まず課長代理が管理監督者に該当するかどうかですが、ほとんどの場合①および②の判断で41条に定める「管理監督者」とは認められません。
 では課長についてはどうでしょうか。役割の実態で①および②については管理職と認められたとします。次は③職務に見合う給与や賞与等でふさわしい処遇を受けているかが問題となります。この会社の課長の役付手当3万円が金額として③職務に見合う報酬かどうかですが、これを検証してみましょう。

 月の労働日はほぼ21日であり、一日8時間ですから、168時間が月の労働時間です。管理職手当と家族手当を除く課長の平均的な所定内給与は35万円だとすれば、時給は2,083円となり、二割五分増しの残業単価は2,600円となります。月20時間ほどの残業が日常的にあるとすれば、その残業手当相当額は52,000円となります。加えて必要なときには休日勤務もあるとすれば、6万円ほどが妥当な金額と言うことになります。賞与金額の計算については問題ないとすれば、少なくとも管理職手当について、その勤務実態に即した金額の変更が必要となるでしょう。

 監督官に支給根拠を質問されたときに、まちがっても「課長は勤続が永く、偉いから3万円なんだ」と説明してはいけません。


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責任等級を根拠に個別の給料を決めるということ

 会社があって、職場があり、人が採用され、仕事に取り組んだ時に給料が支払われるわけですが、給料の払い方には二つの考え方、要素がありま す。

 一方が正しくて、もう一方は正しくないというものではありませんが、ひとつは「その仕事にふさわしい給料はいくらか」であり、他方は「その人にふさわしい給料はいくらか」です。

 つまり「担当している仕事」と「仕事をする人」が賃金に関わるわけですが、賃金管理研究所が主張する責任等級制では給与決定の第一要素は「仕 事」と定義し、責任の重さ、難易度を基準として「職位として責任区分」を設けます。

 この「職位として責任区分」を能率的な組織運営の理論、つまりトップからの指示命令と職場の第一線からの報告が躍動的に往来する精鋭組織のラ イン職制を幹として表示すれば、規模にふさわしい責任等級が職位としてできあがります。


 *責任等級制についての詳細はコチラ

 典型的な中堅企業を例にとれば、仕事のための階層数は職種を考慮しても6段階となります。

 仕事の責任の重さは等級に定義されたわけですから、次の要素として「その人の仕事力」を評価します。各等級初号から始まる号数がそれであり、年2回、賞与時の成績評価制度の結果(成績評語)を重要な資料として客観的に仕事力を測定し、昇給評語を定め、評語にふさわしい昇給を実現します。

 例えば、山田君の本給が「Ⅲ等級21号」だとすれば、彼の担当している仕事の質=「責任の重さ、仕事の難易度」は、上級職(Ⅲ等級)であり、賃金表から現号数の金額を読み取れば、直ちに本給額が分かります。

 もし彼の年令が27才だとすれば、山田君は若くて優秀な人(昇給評語SまたはAが多かった)で、十分将来を嘱望されているだけでなく、1~2年後には、仕事力が認められてⅣ等級(係長)へ昇進できることまで推定することができます。

 これに対して彼の年令が35才をすぎているとすれば、この人は優秀な人材とは言えない(昇給評語Cも多かった)だけでなく、このままでは昇格昇進は期待できないということまで判断できるわけです。

 このように、責任等級制に基づいて従業員の給料を見れば、等級が担当している仕事のレベルを、号数がこれまでの勤務成績の累積を示すことになりますから、給料への不平や将来に対する不安なども、ほとんど解消することができ、労働モラールの形成に貢献することになります。

 加えて責任等級制では職種を超えた統一本給表が運用の要となるため、職種を横断した人事異動が可能となり、適材適所、人材活用が実現できることも大きなメリットなのです。


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プロフィール

弥富 拓海

Author:弥富 拓海
賃金管理研究所所長。
 強い企業であり続けるためには、やる気と向上心の総和を
最大に維持し続ける給料と評価と処遇の仕組みが不可欠です!

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